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文弱日記

文学とサブカルとお役所生活

神保町の変態少女

エッセイ

 フランスの文豪バルザックはコーヒーを愛していた。一晩だけで50~60杯のコーヒーを飲んでいたと言われている。 そのため、「バルザックの膨大な作品群はコーヒーの大河から生まれた」とまで言われている.

ぼくは今、柄にもなくコーヒーを飲んでいる.そのためか、異様に今週の日曜日のことを長文で書きたくて仕方がない.ぼくの文章など、バルザック大先生と比べれば月と尿管結石ほどの差がある駄文であり、 それを徹夜明けのテンションで、気持ち悪く長々と書くつもりであるため、ひどいものになること折り紙つきである.

しかし、それでもよいと思う物好きな人がいてくれたなら、 お読み下されば幸いです. 秋の夜長の暇つぶし程度にはなると思います.

 

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 江戸川乱歩の短編小説に、‘人間椅子`なるものがある。そこには言葉で形容できないほど醜い椅子職人が登場する. 彼は自分の容姿が醜いことを過剰なほど引け目を感じていた。そのため、深い人間関係を築くことはできず、 日々の人との交流さえ避けていた.

しかし、そんな彼も孤独には耐え切れず、ある日行動に出る.

人一人がなかに入れる特殊な椅子を作り、自分がその中に入った状態で、 その椅子を取引先のホテルへと納入したのである. そう、彼は人としてではなく、人に座ってもらう椅子として人々と交流する方法を取ったのだ.

 そうして、彼は椅子として人に座ってもらうことを通じて、その素材越しに人肌の暖かさを知り、人を受け入れる`椅子`としての自分の存在に快感を覚えていく. しばらく経って、その椅子はある美しい女流作家のもとに渡った. そこで、彼は彼女に恋をした。


彼は椅子として彼女に尽くした。彼女が体を預けるときにはふんわりと受け止めるように心がけ、彼女が疲れたときにはそろそろと膝の位置を変えてあげ、彼女が眠りに着くときには体を揺らして揺籃のように務めた。

彼は本気で彼女のことを愛していた。彼女の傍にいられるだけで満足だった。彼は、自分は美しい彼女に不釣り合いなとても醜い人間だと自覚していたから、このままの関係でよいと思っていた。

しかし彼の恋心は燃え上がる一方。

そしていつしか、嫌われるのはわかっていても自分という存在を認知してほしい、という感情が強くなっていき、 ついに彼女にその旨を伝えることに・・・・

この人間椅子は一般的には乱歩のエログロ作品の一つとして見られている.

 

`椅子の中の醜い男`の話

そう考えたら当然だ.今で言うストーカーよりたちが悪い、‘キモイ`話しである.

しかし、‘彼女`の評価は違った.

 ”醜いという自意識がゆえに人と交流が取れない、 しかし人と交わりたい、 ってジレンマに悩む彼にとって、 人間という自分を消して椅子になってまで人と交わろうとした彼の行為は歪んだ自己主張の表れなんですよ.試行錯誤、苦悩苦悩の末にたどり着いた最終結論だったんですよ.
特に、 凌辱しようと思えば椅子の中から出て彼女を凌辱することができたのに、 「自分ではあんな綺麗な方に釣り合わないからそばに置いていただけるだけでいい」なんて思い、 椅子として奉仕し続ける彼の姿は、自信の無い装飾系男子の歪んだ愛の形であり、忌まわしき下半身からの支配をも超越した、

純粋な愛ではないですか!!
私が彼女だったら、椅子越しに彼を抱きしめてあげますよhshs ”

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  (/ ̄ ̄ヽ\__ )
-=イ ハ /ーiハ| Y
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 レ |彡  "/イ八
 レ丶" <フ  / _>
  \_>_ (⌒)ー<ゝ
   / ( )"\\_〉
   Vレヘ\\介\\\

そう周囲を気にせず人間椅子に関しての自分の見解をまくしたてるように熱弁する彼女の姿に、はっきり言ってぼくは相当引いた 。喪のぼくを引かせるものだから、 それは大したものである.

 

10月23日日曜日

 その日でちょうど前回の昭和女子大の文化祭から約2週間がたち、正気を取り戻した自分は惜しげもなく昭和女子とのメール友関係を解消し、すがすがしい日曜の朝を迎えていた.

‘おなごの存在如きにぼくという確固たるアイデンティティーを変容させてはならない`

というのが、ぼくがとてつもなく寒い高2の冬に涙ながらで得た教訓であり、 吹けば飛ぶようなワラの家を支える柱の一つでもある. 彼女はそこに遠慮もなく土足で踏み込んだ、だから切った、というのが事の顛末であり、 何も宗教的理由でない.(決して何かあったわけでは…)

彼女のメールアドレスを消去し、自分の電話帳がいつも通りの、 野郎だらけの、不毛な、花の無い、無機質のデータの固まり に戻ったところで落胆し現実を見る. プレーボーイごっこはここまで (´・ω・`) 


 目の前にあるのは、男性名ばかりが目に留まる電話帳. 申し訳程度、女の子たちの名が入っているといっても、 社交辞令や業務的連絡理由から、 またはマザーテレサが如き慈悲の心からメアドを交換してくれた人ばかりだから、 実質的には無いに等しい。 そんなことを再認識しては気分が沈んでいた日曜の昼下がり、ぼくは神保町に向った.

 

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 神保町とは東京都千代田区に位置する古本の街で、えもいえぬ古本の匂いが充満している、 本の虫にはたまらない街だ.

しかし、なにぶん華々しさと言うのには無縁で、 居るのは秋だと言うのにタオルで汗をぬぐいながらお目当ての本を探す眼光鋭い、深海魚のような中年男性やドヨーンという擬態語がふさわしいさえない男ばかり. 間違っても、青春真っ只中の若人が日曜の昼間を過ごすべき場所ではない.しかしなぜかとても居心地がいい。

「なるほど、やはりぼくはこちら側の人間かヽ(´ρ`)ノ」

と認めたときには、その街の風景に溶け込んでいた.

 

 何店か回り、予想以上の収穫を得て柄にもなくホルホルしていたぼくは、早速戦勝品を拝めるために近くの喫茶店へ入った。そこは良く言えば70年代を思わせるレトロな、悪く言えばほこり臭い、 タバコのにおいが漂う喫茶店の中は案の定、深海魚たちの巣窟であった.

そんなとてつもなく落ち着いた雰囲気の中で、これ見よがしに戦勝品をテーブルに積み上げ、 コーヒー片手にそこから本を取ってはパラパラとめくる. 江戸川乱歩全集に、夢野久作全集に、斎藤茂吉の詩集、歳時記うんぬん……我ながらセンスの有る買い物をしたものだ、と半ば見せびらかすように、次から次にと本に手を付けた。

そうしたインテリごっこを楽しんで数十分が経過した時、 隣から、

「それって、江戸川乱歩全集ですか!?」

と何やらその場には似つかわない黄色い声が聞こえてきた. 振り返ると、大きな手提げ袋を抱えた女の子が一人、こちらの本の山を見ている.

「全集、しかも1~6巻まで欠品なしのですよ(・′∀・`)ドヤッ 」

と喪故の防衛反応から、ついつい親しい仲の相手に対しても慎まれるべきほどのドヤ顔自慢をしてしまったが

「えーΣ(´д`;)、それって2万以上するやつじゃないですか!?どこの店で買ったんですか?」

と引かれるどころか、どうも食い付きがいい. いつの間にか彼女は自分の向かい側に座り、ぺらぺらと話し始めていた.

聞いてみると、彼女は名古屋から東京に観光に来た高校生らしく、 そのついででわざわざ何を好き好んでか神保町に足を運んだらしい. そこでたまたま目にした、以前から欲しかった乱歩全集が資金不足のため購入できなかったそうな.

ぼくが買ったそれはそんじょそこらの古本チェーン店で買えるものとは大違い、なんせポプラ社の初版版だからね。そのため、いたくぼくの乱歩全集が気に掛るようで、 聞いてもないのに、どれだけ探したか、値段を見てどれだけショックを受けたかを語り出す.

「どこのお店も値段はほとんど同じなんですよ!! キズものでもいいから一番安いものでいいって言っても、どこもこれが最安値の一点張り? きっと商店主全員がぐるになって、裏でカルテルでも作って価格競争を起こさないようにして~」

などと陰謀論めいたことまで言う始末.

 

 

初対面の喪のぼくにそんなに熱く乱歩全集への思いについての一人語りを始める女の子. そんな人は、無論汚い下心を持っているに違いないと、前回の創価で学んだばかりだ. 今回は、自分の持っている乱歩全集の奪取が目論見だと思われた.もしもそうではなく、ただ純粋に一人語りをしてるなら、危険な人種に間違いない.

どちらにせよこの女のことは関わらない方がいいというわけだ.

 

せっかく名古屋から来たのにそれは残念ですね何なら自分の乱歩全集を譲りましょうか? なに、家に実は同じものがあり、ただコレクター用として買ったものなので、 気を使わずに東京旅行のお土産としてもらってください.

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 ̄二フ|/  /  /
  厂  /  /
(※イメージ図)     

などと言って本を譲ることができたら、きっと性格イケメンにはなれただろうが、こちとら財布も心にも余裕がない.食費を削って買った本をやすやすと譲れるわけがない.


そうなんですか、 それは災難ですね(汗) 確かにここの価格ってネットに比べると少し高いかも. 名古屋に帰って自宅から ネットで注文して買えばいいんじゃないですか? 本が安く買える所知ってますよ. よかったら教えてあげますよ(汗) それにしても凄い情熱ですね、 そんなに江戸川乱歩が好きなんですか?

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\ u.` ⌒´       /
ノ            \
(実際)       

などと、本当にどうでもいいことを言って、急場をしのぐつもりであったが、火に油 。益々彼女は饒舌に乱歩文学の素晴らしさを 語り始めていた。

 


彼女は、陰獣、孤島の鬼、屋根裏の散歩者 と言ったメジャーなものから、 踊る一寸法師、火星の運河・・・ といったマイナーなものまで各作品の好きな ところをまるで水を得た魚のように女の子が使うべきではない言葉を用いて語る始末.

とくに、人間椅子の考察については圧巻だった.

ただ、彼女の述べる言葉に相槌を打つだけなのはシャクだったので、ときどき冷やかしを入れたり反論などをしたがどうも歯が立たない. 知識量というものからしてどうやらこっちの比ではないらしい.

 

そうこうして1時間程話したころ

「これから旧江戸川乱歩邸の公開イベントがあるけれど、良かったら一緒にどう?」

と大体の意味において捉える事が出来るであろう提案を彼女がした. 聞き間違えではなければ、これはデートのお誘いということなのだろうか?、もしや噂に聞く逆ナン?……

そのイベントには興味があったが、 青春真っ盛りの大学生の日曜のスケジュールほど詰まっている物は無く、そうやすやすと直前におさえることなどはできない. 少なくとも1週間前からの予約が必要だ.

「残念ながらこれから予定がありますので」

と言う旨を伝えて、丁重に断った。 (決して喪特有の敵前逃亡ではない)

その後、メールアドレスを交換して彼女と別れる。

喫茶店を出ると、私はスケジュール通り古本屋に向った. そこでこち亀の立ち読みを始め、難なく予定していた巻数まで読み進めたところで帰宅の途に就いた。 帰宅ラッシュには巻き込まれずに、余裕をもって帰ることができた。これも想定通りだ。

帰宅して間もなく、彼女から 頼んでもない今回のイベントのレポが届いた。 男同士の業務メールをも凌駕する、 顔文字すらない黒一色の殺伐とした文面からは、 彼女のドヤ顔が透けて見えた。きっと彼女はぼっちなんだろう、という予想が確信にかわった.

 

相手は、形式的には女の子、いつものようなメールではいけないと思い、 推敲や添削を繰り返しながらなんとか、‘これだ`というメールを作っては送信する. そんなこんなでたわいもないメールが続き、今日で4日目.

自分の電話帳にまた変なのが増えたなぁ(´д`) なんて思いながらも、女の子とメールするという、小さいものを除けば高2の冬以来の行為に何故か少し動揺している.

彼女ならば自分と言う奇奇怪怪な人間を受け入れてくれる度量があるのではないか? なんて馬鹿なことを思ったり、思わなかったりしながら、この日記を書く.