恋文の流儀

 

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 夏目漱石が学校の先生をしていたとき、ある生徒が「I love you」を「我君ヲ愛ス」と訳したのを聞いて「月が綺麗ですね”と訳しなさい。それで気持ちは伝わりますから…」 と言ったとされる逸話がある.

‘愛してる`なんて直接的な言葉が当時の日本人の感性に合わず、漱石なりに考えだした意訳が実に奥ゆかしい、さすが大文学者様だ!として語られるエピソードだ。 テストでこう訳そうものなら部分点なしも確実だが、実に控えめで、情緒的な表現である。

 同じく文豪の二葉亭四迷は、ツルゲーネフの「片恋」を和訳する際、ロシア語の「I love you」を試行錯誤の果てに、 「(あなたのためなら)死んでもいいわ」 と訳したという。‘あなたのためなら`すら「文中の意味から読みとれ!」とする二葉亭四迷先生のセンス、及びこの言葉に込められた本当の意味を読みとれていた当時の人々の繊細な感性には脱帽ものである.

 各言う我ら日本人は情緒的な表現を万葉の時代から好んだ、非常に奥ゆかしい民族だった・・・・・・・・ハズである。

しかし、二十一世紀の今、耳を澄ませば聞こえてくるのは、「愛してる、大好きだ、会いたくて~」などと連呼する表象的で軽薄な歌の一節。周りを見渡せば、活字にもそんな浮ついた言葉が出る始末.

そんな現在の日本で、「月がきれいですね」などと言っても、「そうなの?ってか、だから何?」と返されるのが落ちだろう.(※ただしイケメンは除く)

「死んでもいい」なんてメールで送った暁には・・・・・・

 タイトルを見て、めくるめく桃色遊技を想像し、「なんぞお前の恋話など聞きたくない.馬に蹴られて死んでしまえ!」なんてことを思った人が微粒子レベルで存在すると思いますが、安心してほしい.これはメル友未満スパム以上の自分と岡本女史とのメールでのやりとりの話.

 

 タイトルをもったことは謝ります(^u^)> へんちくりんな趣味と性癖の共通点を持つ彼女とは、前に書いたが先週の日曜日にひょんなことから出会って、そこからメールをする関係になった. 彼女は本当にヘンテコな女の子である. 彼女の文学の豊富な知識量と、アブノーマルなことに対する造詣から、ぼくはひそかに、`岡本女史`という名をつけて呼んでいる.

出会ったその日からのメールの内容は、当たり障りなく、主に共通の趣味や性癖に関することがメインだった.乱歩がどうだとか、寺山がどうだとか、一丁前に文壇論議を戦わせる。いや、彼女の豊富な知識と文才を前に、ぼくは防戦一方だった。

 

 そんな彼女の話に頑張って付いていこうと思い、wikiで調べたり、添削・推敲ををしながら、なんとか返信をするのが精一杯だ. まぁ、性に関しては中学生の時から詰め込んでいた知識の蓄えが、この先一生困ることないぐらいあったので、互角に渡り歩く(`・ω・´) b しかし、やり取りは次第に自由奔放になり、話題は飛躍し、彼女の生い立ちという危険な領域へ・・・・・・・

ある日の夕方、ぼくはつい勢い余って次のようなメールを送ってしまった。

 ぼくはしばし、このようなアブノーマルの趣味と 肥溜めが如き糞ったれた性格との因果関係に 疑問を持ちます。 この汚物にまみれた性格がそうさせたのか、 はたまた趣味が性格をそう捻じ曲げたのか。 ニワトリが先か、ヒヨコが先か…まるでパラドックスです。 あなたはどう思いますか?

 

 その日の夜、彼女からの返信には「私の場合は、環境因が大きいかな」という書き出しから始まる、昼ドラをも凌駕する壮絶な半生が綴られていた・・・・

 

 幼稚園時代に間近に見た実父の母への執拗な暴力、 小学生時代の両親の離婚と母の再婚、 そして、中学生時代に経験したレイプ未遂・・・・・・・Σ(´д`;)

(他にもありますが、処々の事情により割愛)

などの内容が赤裸々に書かれていた. メールの文面は、「だから私は誰からも必要とされない、孤独な人間なんだ.死んだほうがましだ」で結ばれていた。いやいや、だれもそんなこと聞いてないから……。

ここ最近のやりとりから、最近彼女がひどい事件に巻き込まれたらしいことがわかっていた。どうもそのことが、このメールを通じて爆発してしまったことが伺えた。続いて、彼女のリスカ画像が送られてきた……

うすうすは感じていたが、この時、初めてぼくは理解した。 うん、これはいわゆる地雷女ってやつだ。

むろん、女の子と継続的なメールをした経験が浅いぼくヽ(´ρ`)ノが、こんなメールにうまく返信できるわけがない.サルにパイナップル地雷の解体をさせる方が、まだ成功率が高い.

 相手がかまってちゃんなら、 「つらかったね、大変だったね」 などと優しい、‘月並みな`言葉をかけ慰めた後で、 「少なくとも、俺は君のことが必要だ。 全部受け入れてやるから、俺のために生きてくれ」 などと、携帯小説が如き、浮ついた馬鹿みたいな言葉でもかけたら、あわよくば貞操を捨てることもできただろう。

しかし岡本女史ほどの毅然とした女の子が決してそういった様式でオチるかまってちゃんなわけがないまた、反フェミニズムを信奉し、西野カナを嫌悪するぼくに、女の子にそんな優しく、月並みな、浮ついた、絞りかすのような言葉をかけることが出来るわけもない.何よりそんな容姿でもない。

返信に苦悩した。 返信が遅くなっては、いけないと思いながら、ぼくの全知識や経験を総動員して文章を推敲した.

 

 翌日、大学の講義など耳に入るわけもなく、うわのそら.家に帰るころになっても思いつかず、部屋の中を歩き回って考える.シラフではペンが進まないとあっては、酒も入れた。理性を殺さねば恋文なんて書けたものではい。「キモオタのくせになに書いてるんだぽきたwww」と、隣で批判してくる自己嫌悪を追い払うためには前頭葉をマヒさせるに限る。肥大化した自意識を抱えるビョーキ持ちのぼくにとっては、主観が客観視されていないような、純粋経験的な境地が恋文を書くためにはマストなのである。バドワイザーを3缶飲んで、ブラックニッカを1本開ける。

そして、自己嫌悪も自意識も視界も、すべて朦朧となった丑の刻、文章ができあがった。書き手はぼくであって、ぼくではない。以下のような内容だ。

 

平平凡凡とした人生を歩んできたぼくに、 あなたの悲しさ、孤独、怒りは、 一握りも理解できないだろうけど、 理由はどうあれ、‘死んでもいいかな` なんてキミに言われたら、ぼくも死にたくなる。

 

 苦情は受け付けない。エチケット袋を用意していなかったあなた方読者がわるい。何とも不甲斐ない気弱な、童貞丸出しの文章.推敲に推敲かさねた揚句に袋小路に入ってしまった面もある. しかし、これ以上の返しは無いなと思ったことは事実であり、未だにに嘔吐、嗚咽が止まらない方もいると思いますが、手前味噌だが、解説をする.

鬱の人間が否定的な発言をした時は、‘慰めるのではなく話題をそらす`これが鉄則である.マラソンランナーに「がんばれ」と声をかけていけない理由と同じである.本人たちは、メンタルが弱いなか日々頑張って生きて来た結果、「死にたい」と口にするのだから、頑張れ、生きろ、は禁物なのである. この文章が導く可能性は以下の3つである考えられる.

 

1 彼女が文意を理解できなかった場合. 「何がかなしいだ、馬鹿野郎、お前に私の気持ちがわかってたまるか!」 っと彼女の感情のベクトルは悲しみから自分に対する怒りへと変わる→死ななくて済む\(^o^)/

 

2 彼女が文意を理解した場合 「なにそれは二葉亭四迷?告白のつもり?キモイから本気で死んで、どうぞ!」 っと彼女の感情のベクトルはこれまた同じく悲しみから自分に対する嫌悪へと変わる→死ななくて済む\(^o^)/

 

3 彼女が文意を理解し、かつ好意を受け入れた場合 「本当に馬鹿なんじゃないの?。・゚゚・(つд∩・゚・。、このど変態//////」 ってなる可能性は……微粒子レベルでも存在しない.

 

 まあ、1,2のいずれにせよ自分が人柱になることで、彼女の気分をなだめることができる.これはそんな、謙虚で自分の身を顧みない献身的な文章なのである( ー`дー´)キリッ 例えるならば、親もなく怪我をしていたため保護されていたゾウの子供を、5年間寄り添って育てていた動物園の飼育員のおじさんが、そのゾウを野生に返す時に見せる、涙ながらのゾウへの愛の鞭。

わざと嫌われ者に徹することでゾウを自主的に自然に返そうとする、おじさんのゾウへの配慮の表れ.

・゚・(つД`)・゚・

考えただけでも泣けるではないか! これぞ純愛! 相手の幸せをを思ってこその愛なのだ. おじさん、カックイイ!!!!・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

そうんな馬鹿らしい想像をしているうちに返信して一日、約21時間がたった.今現在、一通も返信がない.いつもなら、遅くとも六時間以内に返信があったのに。

先ほどのメールが悪かったのか、もしや気持ち悪すぎて勢い自殺…と思い、先度の、そして今までのメールを何度も見返した。異性と仲良くなるためのメールマナーなんてサイトも見る始末.その中に書いてあった「異性とのメールで避けるべき表現」について当てはまるのが二つもあった.

 

① メール返信は時間を置いてやる

「相手は常に携帯電話をいじっているわけではありません.メールを打つこともご飯を食べる、お風呂に入るといった生活習慣のひとつなのです. 返信をすぐにすることは、相手にも即返信を求めかねないこととなり、相手にプレッシャーを与えてしまい、重く思われるかも. 相手の生活時間を考慮したうえでの返信を.」

 

うむ~(;´Д`)、何とも当てはまる.ってか、返信って即時にやるのが礼儀ではないのか?重いやつと思われてたのかな・・・・orz

 

② 実際の関係を考慮したうえで、客観的に自分の文章を吟味する

「異性とのメールでは、実際の関係を考慮にいれず、大好き、愛してる、ぎゅっだよ(抱きしめる意味らしい)などといった、妙になれなれしい文章を送る人がいます. 普段からこのようにチャラい性格なら問題は無いでしょうが、たいていの、このような文章を送る人は普段とは別人格かと思わせるほど、メールと現実がかい離していることが多い.

互いに恋愛関係なら別に問題ありませんが、唯のメル友関係の場合は、絶対にこのような文章は送ってはいけません.メールを媒介した恋愛ごっこに興じている人ほど陥りやすいです. はっきり言って、‘死ぬほど気持ち悪いです‘」

 

‘死ぬほど気持ち悪いです`

‘死ぬほど気持ち悪いです`

‘死ぬほど気持ち悪いです`

 

……この言葉が脳髄をこだまする.今の今までは、大好きだの、愛してるだのの言葉などは、おくびにも出さなかったが、最後のメール内容がどうもそれに当てはまるっぽい.

 

 平平凡凡とした人生を歩んできたぼくに、 あなたの悲しさ、孤独、怒りは、 一握りも理解できないだろうけど、 理由はどうあれ、‘死んでもいいかな` なんてキミに言われたら、ぼくも死にたくなる。

 

この文章が導く4つ目の可能性

4 「何これ、とても気持ち悪い……踏ん切りついた、死ぬわ。」

→死んじゃう\(^o^)/ チーン

この4つ目の可能性を我ながら読みそこなっていた.そんなこともできずに、いもしない飼育員のおっさんと自分を重ねる馬鹿妄想はできる自分の脳髄を恥じる。「駄作の恋文は凶器に値する」 というどこかの国の文豪の格言が身にしみる。「ペンは剣よりも強し」 一人のいたいけな少女の命を奪った我が右手を恨む。

 

 次回の(あるかな?)ご参考までに、出来ればでいいので、みなさん何か自分なりの異性とのメールでの流儀、きまり、ルールなどがあったら教えて下さい。

 

返信、こないかなぁ(´・ω・`)