文弱日記

文学とサブカルとお役所生活

一目惚れのようなもの(前編)

ぱっちりと大きく少しタレ気味の目
ふっくらとしてりんごのように赤い幼さ残る頬
生意気そうに尖った唇
肩のあたりまでサラサラと流れる黒髪……

 


これがぼくの目引くタイプの女性と言おうか、まぁ、ぼくが好きな女性の外見だ。ショートヘアがイイだとか、タレ目が好きだとか、何属性が好きだとかは別段意識したことはないけど、これがブックマークをしているxvideoの動画や、熾烈な生存競争に勝ち抜いた猥褻図書の中の女性が共通している特徴だ、と最近になって気づいた。

たしかにぼくはそういう感じの女性に目がないらしい。電車などでこの手の女性と乗り合わせると、自然と目で追ってしまっている。


だけど、語学のクラスでぼくが秘かに恋心のようなものを抱いていた女性は、少しもそんな感じの外見ではなかった。


銀縁のメガネの奥の少しつり上がった目
そばかすをまぶした頬
背中まで伸ばした薄茶色のストレートヘア……


お世辞にも美人とは言い難い感じの女の子だった。ワイワイうるさいクラスの中で、彼女はいつもつまらなそうな、ふてくされたような、「なんだかあたし、困っちゃったなぁ」というような表情をしていたのをよく覚えている。ぼくはその、フランス映画の女優のようなとでもいうか、アンニュイなその表情に恋のようなものをしていた。高校のようなノリが支配する、大っきらいだった語学の講義でも、彼女の姿を見るたびになぜだか幸福感に包まれたものだった。

 

 

ぼくの大学のでは、講義というのは基本的に大教室で行われる。その大教室は400人ほど収容可能な中ホールのようなもので、マイクをつけた教授が巨大な黒板と2枚のスクリーンを使って講義をする。同学年で5000人、同学科でも800人はいるマンモス大学ならばこその光景だ。自由席であり、その規模から教授がしゃべるだけの一方向的な講義スタイルなため、ぼっちにありがたい。そのため、ほとんどの講義をひとりで受けるぼくもその恩恵を受けている。


そんな中でも語学(英語&第二外国語)の講義だけは別だった。クラス単位(30人ぐらい)で、教授と学生、学生同士がコミニュケーションを取り合う、高校の授業のように双方向的なスタイルで講義は行われる。座席も指定制。そのため月一で席替えなんかあったりする。 週二回の講義、しかも次年度にそのままのクラスが持ち越されるとだけあって、クラスの人間関係は高校のそれ並みに緊密で、月一で‘語学飲み`が開催されるほどだ。


そこでの話題は主に

自分語り⇒知り合い自慢⇒にわかアニヲタ話⇒ウェ~~イ⇒自分語り⇒……

と堂々巡りのように繰り返される、内容が空っぽなくだらないもの。その大学生のノリというのがどうも気に食わない。この環境はぼっちのぼくには生き地獄、去年は息をひそめ自分の存在を消し、なんとか無難にやり過ごした。しかしクラスは二年次まで持ち越すため、今年度もそれに耐えなければいけなかった。

 

語学の講義は高校の教室のぐらいの広さの、こじんまりとした教室で行われる。だいたいみな授業開始の5分から10分前に教室に入り、いくつかのグループに分かれ、雑誌を回し読みしたり、飲み会の予定を立てたり、法律の問題を出し合ったりしてくっちゃべっている。ぼくはそんな高校の教室のような雰囲気が苦手で、用もないのにトイレに入ったり、冷水機でさほど乾いてもいない口を潤したりして、いつも教室入りの時間を授業開始2分後(出席をとるかとらないかギリギリの時間)に調節していた。人これを‘ぼっちの流儀’と言う(`・ω・´)b

 

そうして遅れて教室に入る頃も、中はたいていざわついてる。今年の5月頃だったか、いつものようにぼくが遅れて語学教室に入ったとき、いつものように教授は講義はじめの世間話をしていて、みなはまだ休み時間のおしゃべりの延長戦を続けていた。教授に軽くおじぎして、人の席の間を通って自分の席へ向かうそんな道すがら、教授の話を聞くでもなく、みなとおしゃべりをするでもなく、頬づえをつきながら、ただぼんやりと黒板を見つめている、そんな少女の姿が目に入った。


彼女ひとり、教室から浮いて見えた。


周りに無理して馴染もうとするのでもなく、ぼくみたいに自分を消して逃げるのでもない。そんな彼女の、ダリの絵画のような不自然な凛々しさが漂う姿がとても印象的だった。そのとき、ぼくは初めて彼女を意識した。

 

彼女は今年度になって初めてこのクラスに入った転入生だったため、ぼくとあまり面識がないのは当然だった。
それでも、彼女がクラスに入ってから一ヶ月以上が経った後だったことを考えると、かなり遅めの第一印象ということになる。ぼくは、語学の講義ではほとんど机に突っ伏して寝ているか、中島らものエッセイ集でも読んでいるか、いずれにせよ自分の中に逃げ込み、どうにか退屈な時間をやり過ごすようなやつで、あまり周りの人を観察する余裕なんてなかったからかもしれない。


彼女がアーバンギャルド(トラウマテクノポップを自称するサブカル系ポップバンド)のクリアファイルを使っていたことから、ぼくは彼女を‘サブ子`と秘かに名づけた。その日から講義中暇ができると、つまらなそうに講義に耳を聞くサブ子の横顔を見て、「きっと彼女は今、こう考えてるに違いない!」と勝手に妄想を広げては。ひとりフニャフニャしていた。

 

ぼくがサブ子に一番近い席にいた一時期は、サブ子のまんまるい頭だとか、窓から差し込む午後の日差しを受けてキラリと光る銀ぶち眼鏡だとか、その奥で「困ったなぁ」とい言っている(ように見える)黒目がちな瞳を盗み見ることに何とも言えない幸福を感じるような、アブナイ野郎と化していた。

 

 

サブ子は時々フッと、教室から消えることがあった。

出席確認の時はいたのに、講義中盤にはその姿が見えないことが多々あった。語学の授業は昼休み前の二限にあるため、講義が終わった後は、みなはたいてい教室に残って昼ごはんを食べたり、月一回は校外のファミレスに食べに行ったり、黒板を使って次回のクラス飲み会の出欠を取ったり、などと、高校で言うところのクラス会の時間みたいなものが始まる。強制力はなく退室自由なものの、クラス全体で作り上げられたその和気あいあいとした雰囲気を壊すのでは?と思うと身が重く、ぼくは結局嫌々ながら毎回退室できずにいた。
(さすがにクラス飲み会は毎回理由をつけて断っているけど)
他のぼっち勢もその様子で、こうした無言の強制力によってクラス会は鉄壁の団結力を誇っていた。


しかしサブ子はそんなクラス会からも、ヒラリと退室することがしばしあった。アレレどうしたのかな、と思えば、気づいた頃にはまた斜め前の席にちょこんとサブ子がいて、またいつものように「困ったなぁ」という顔をして再びぼんやりと黒板を見つめているのだ。この‘サブ子の消失の謎`はぼくの推理もとい妄想の格好の的となった。