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文弱日記

文学とサブカルとお役所生活

人のセックスを笑うな

 ほぼ毎日のように映画を鑑賞しているのだけれど、邦画を観るのは本当に久しぶりだった。 

 

それも特に避けていたジャンル、恋愛モノだ。 大抵の邦画の恋愛モノは、観ると嫌な気持ちになるか、空しさや後悔がひしひしとこみ上げてくる。 まるで、「あのときこうしていればよかったのに」と、誰かから指摘されたような気分になって、 「じゃあ、ぼくはどうすればよかったんだよ」と、一人で泣きたくなるものばかりだった。 

 

 しかし、この映画はタイトルとは程遠い、どこかやんわりとした日常系の青春映画だ。 題名にセックスという単語が入っているのだから、十代の男子ならば、 「あの女優の濡れ場があるんじゃないか」とか、「濃厚なベッドシーンが…」だとか、 そういった憶測を抱くかもしれない。いや、そこまで安直な男子もいないかな・・・・。 (ぼくは少し下心があったのだけど)

 

 だが、この映画に関しては、ぼくが淡い期待を寄せていたような、生々しいベッドシーンなど、 一つも登場してこなかった。むしろ、これはベッドシーンなのか?と疑問に思うほどのライトさだ。 

 

 内容を語るのは面倒なのでさておき、ぼくが記憶に残っていて、なおかつ観ていて心地のよかったシーンがある。 寒いと言い合いながら、油のなくなったストーブに、男が仕方なくストーブ油を注ぐシーンだ。 

 

女は自分では絶対に補填しない、いつも他の男にしてもらっていて、どんなに寒くても辛くても、 ただ、溢れて床が油で汚れるからという理由だけで、注ごうとはしない。 

 

男は「こうすれば簡単に注げるのに」と、苦笑しながらも油を注ぐ。 だが、男は油を満タンには絶対にしなかった。なぜ中途半端にするのかと愚痴をこぼす女。 

 

男は楽しそうに、愛をもって、簡単にできるのだからと言う。 そんな些細な日常の積み重ねを、コミカルでかつ美しい掛け合いで紡いでいる。 

 

 

 女の感情的な表情や、男の寂しそうな様子。どことなく儚げなベッドシーン。冬の冷たい空気。裸に近い恰好で、男女が一枚の毛布にくるまっているだけなのに、どこか懐かしく、可愛らしい コミカルなシーンに切り取ってしまう。そこに嫌らしさや、生々しさは感じられず、まるで、猫が寒 さから、お互いに身体を摺り寄せあっているかのような雰囲気を生んでいる。 

 

ほんとうに相手を愛していたら、些細なやり取りでも、どんな日常でも甘美に感じてしまう。 

 

バカみたいな会話で転げあって、相手のダメな部分や恥ずかしい部分をさらけ出して、 それでもなお、一緒にいたいと感じあえる。 直接的な快感につながらないのに、 この映画はどこか気持ちよさを表出している。そんなところだろう。 

 

 

 ああ、こういう恋愛っていいなと無意識に、本能的に思える作品。 しかし、モラル的に判断すれば、この映画の題材は背徳的で常識からはやや逸れている。 そうか、そういう部分があるからこそ、この男女の掛け合いは美しいのだと、なんとなしに関心 してしまう自分がいた。 

 

 他人のピロートークだなんて見るきっかけもないし、見たくもないと思うのがふつうだろうが、 この映画に関しては、いつまでも仲よくしていてほしいと思った。