5月終わり、ちょうどぼくの所属する局最大の祭りである決算期の終盤の頃に出会い、付き合い始めた彼女。
まだ付き合って半年も経たないけど、「この人は運命の人かもしれない」という臭いセリフを思い浮かべるほど大好きな彼女。その彼女とのことで、最近気になるところがあって悶々としている。
こんなこと書くと「女々しいやつだ」と思われるかもしれないが、それは彼女の元カレ、その中でも特に直近の一人のことだ。
その彼というのが、財務省主計局で働く超エリート官僚らしいのだ。彼女の話してくれる元カレとのエピソードを聞くたびに、ぼくは彼との差を毎回思い知らされる。聞くたびに心が嫉妬でジュクジュクと痛む。給与や労働環境などの待遇の面ならむしろうちの方が優っている。しかし相手は天下の財務省主計局。ぼくがかつて目指し、そして挫折したかつての夢のポジションである。そのステータスには逆立ちしたって地方公務員は敵いっこない。
彼女はその元カレのことをぼくの前では「財務省くん」と呼ぶ。意識的かまたは無意識なのかわからないけど、その呼び方には財務省主計局勤めの彼氏がいた、という矜持を読み取ってしまって毎回ぼくは心が苦しくなる。
そこは、いち地方自治体職員であるぼくがどんなに出世したってたどり着けない階級であり、彼氏ブランドなのだ。
そんな元カレにぼくが唯一勝っているところが優しさなんだ、と彼女は言う。
「財務省くんなんて私の事あまりかまってくれなかったもん!でもたかくんは優しいからとっても好きなの。」
その言葉を聞くたびに、ぼくは心を痛めるのだ。
この恋は完全にぼくの負け。
「いつか彼女を泣かせられる男になりたい」
それがぼくの小さな願いだ。