文弱日記

文学とサブカルとお役所生活

妻に恋した男

結婚生活、基本的に各々が好きなように過ごしてる。会話の内容も「たんたん」「あもやだ」「ころころ」「なす!」みたいなもので意味をなしてないし、家の中ですれ違えば手を取り合って踊るし、眠れないし夜は一緒に散歩していい感じの自動販売機を見つけたら「ここでジュースを買おう」ってなるし、相手がチョコをこっそり食べた形跡を発見したら問い詰めるし、びっくりするぐらい楽しい。レスだけど。

家事のことでぼくを叱責したり、ぼくの手取りの低さを笑いものにしたり、ぼくと結婚するため太い実家に頼らず健気に働いている彼女を隣で見ていると…、24.5の一番ちやほやされる時期に寄り道もせず真っ直ぐ毎日家帰ってくる姿を見てると、たまにとても申し訳なくなる。

「これが一番賢い生き方なの」

と彼女は胸を張って言う。

昨晩、寝る前に布団でごろごろ転がりながら彼女と映画版プーさんの話をしてたとき、彼女がLINEを見ながらぼくに言った。

「見て見て、これむかし語学で一緒だった人から」

久しぶり!元気?

から始まる食事の誘いの内容だった。

「名字も変わって、アイコン旦那とのツーショットなのに、よく誘ってくるよね」

ー男からそんな誘いって頻繁に来るものなの?

「結婚してからは少なくなったけど、まあ月イチくらいは」

ーみんなよくやるなぁ

「お前は弱いからね。ねえ、飲みに行ってもいい?」

ー止はしないけどヤダなぁ

「分かったやめとく」

それからしばらくプーさんの話が続いた。プーさんの話が一段落すると、彼女が言った。

「私、結婚って恋愛感情だけでするものじゃないと思うの。だって、1年も経てば相手に飽きるものだし、結婚しててもいいなと思える異性に声をかけられると、好きになっちゃうことだってあるわけでしょ?それが冷めちゃった旦那との関係上に盛り上がったら、恋愛感情至上主義を取ると、旦那とは別れて彼と結婚すべきってなる。でも、そうして結婚した相手ともいずれは倦怠期を迎えて、また同じことの繰り返し。だからね、恋愛感情だけで結婚することもなければ、恋愛感情だけで離婚することも、私は絶対ないかな。」

ーそうだよなぁ。そうだそうだ。

恋愛感情をその程度のものとして切り捨てる彼女の言葉に、すっぱいぶどうに似たものを感じた。レスなこの生活を肯定する強がりにも聞こえた。青春の終わりとはこういうものか、と申し訳なくなった。

ぼくらが出会ったころ、彼女はまだキラキラと輝く女子大生だった。ぼくは彼女に恋をしていた。