京都弁

 数年前、司馬遼太郎にハマってたころ、SNSを通じて知り合った幕末の志士たちが好きな人たちとオフ会をしたことがあった。
オフ会に来てくれた参加者の人たちとは話がとても合って、その会合は盛り上がったのだが、ぼくは、その参加者たちよりも、二次会で寄った居酒屋の店員さんの方が強く記憶に残っている。
 
雰囲気良さそうだからここにしない?という感じでふらっと決まったその飲み屋で働く店員に、同い年くらいの女の子がいた。
カウンターの向こうから 
「お兄さんどっから来はったんですか?」
と声をかけられると、酒と一緒にとろけてしまうかと思うほど、その京都弁にやられたのを覚えている。

女の子のとなりで料理を作っているマスターが 
「兄さんが明日暇やったら、この子に東京を案内して欲しいんやけどな~」
などと冗談を言って 
「お気になさらず。でもほんに用が無かったらねえ」

彼女が言った。 
ぼくはうれしくなってついつい酒に手が出た。

 年の離れた兄妹だろう、とぼくは思った。兄の方が端正な顔立ちをしていたが、豊かに垂れた、と形容できる、その愛嬌のある目元がふたりともそっくりだった。

マスターは 
「ささ、兄さんもう一杯いきましょか。いける口でんな~」
なんて上手に勧めてきて、ぼくもそれがなんだか楽しくで、結構な量の日本酒を飲んでしまった。
ぼくはその間ずっとその子をちらちら見ていた。まったくうまく飲まされてしまったのだが、それにしてもあの子はかわいかった。