スーパーロボット大戦の話

人生においてスーパーロボット大戦より楽しいことはそうないと思う。
スーパーロボット大戦の楽しさを知ってるなんて暗い人生だね」
という声が幻聴で聞こえてくる。健康な人はそんなゲームを知らずとも、すくすくと育っていくものだって。
否定はしない。が、やっぱりスーパーロボット大戦のたのしさを知らない人生は不幸だとぼくは思う。

巷にあふれる歌、映画はもとよりオタクが主な購読層なラノベですら、そのテーマに恋愛を扱う。世間は恋愛コンテンツで溢れてる。馬鹿か?スーパーロボット大戦を語れよ。そこにはドラッグにも暴力にもセックスにも勝る恍惚がある。ぼくが人生において文字通り熱中し過ぎてヨダレを垂らしたことがあるのはスーパーロボット大戦ただ一つだけだ。

そういうわけで中学、高校、浪人期から大学後期にかけて、時間が空けば、というか時間が空かなくても、大学、バイトをサボってスーパーロボット大戦をしていた。
当時付き合っていた彼女は、ぼくがリビングでスーパーロボット大戦をするのをただちょこんと座って見ていた。

MAP兵器ゴッドボイス!うぉぉぉお!
近接最強火力!大雪山おろし!気合なしでも出せるコスパ最高だぜ!!!
幻の最強リアル系!ハイパー百式改!

ピコピコ操作をするぼくをただ彼女は見ていた。気まずい。早く帰らないかな。
必要以上にゲームに熱中するふりをする。早く呆れて諦めてくれ。戦闘曲のBGMに合わせてダイターンの歌を歌う。

 

1 2 3! ダイターン3!)涙はない 涙はない 明日に〜♪

 

まだ帰らない。

ずーっとゲームを続けて23時になった。

た。終電、そろそろじゃなかったかな。彼女は何も喋らない。

彼女は生まれつき体が悪かった。お薬をたくさん飲んでいた。付き合う前、そういう彼女の脆さがたまらなく魅力的に見えた。弱さが可愛さに、エキセントリックな振る舞いがミステリアスに見えた。
思い出補正かと思い、今でもたまにツーショットの写真を見る。間違えない。彼女まぎれもない美少女だ。なんで別れてしまったんだろうな、と後悔する。

 

スーパーロボット大戦IMPACTは今でもたまにプレイする。するたびにハマるから、できるだけ触れないようにしている。
それはスーパーロボット大戦の中では地味なシリーズだ。
初参戦作品はイマイチなものばかりだし、エヴァ参戦のMXや派手なストーリーのαと見劣りする。
しかし愚直なまでのゲームバランスへのこだわりや個々の作品の世界観を考慮した、お祭り感の薄い重厚感のあるシナリオが、この作品に他のシリーズにはない普遍性を与えている、と言うのは言いすぎか。

彼女とは結局ダメになった。別れ際はぐっちゃぐちゃの滅多めたで、もう恋なんてしないと本気で思った。
槇原敬之のあの歌は真実を歌っているって。
それからいろいろあって5年が過ぎた。彼女よりもっと好きな人と出会ってもっと好きな人と別れた。
そんな中でもスーパーロボット大戦IMPACTとの関係はいまでも続いている。
22,3の人生の華の時期を先のない不毛な恋愛に使うんじゃない。君もスーパーロボット大戦しろ。お互い華が過ぎたら、今度はスーパーロボット大戦の話でもしながらまた会おう。