夜の花見

また花見をした。時期的にも今年最後の花見になると思う。夜の花見。郊外の川沿いを歩いた。ぽつぽつ街灯がある程度で辺りは暗い。

「桜本当にあるの?」
「あるはずです…2桁くらいは」
「(群生しているわけではないのか)…」

チョロチョロと水の流れる音が沈黙を預かる。
からしばらく川沿いにまっすぐ歩く。桜を探さないといけなかったんだけど、目はそれどころじゃない。

腕時計をしていなかったから、何分歩いたか分からない。1時間かもしれないし、10分だったかもしれない。
それは不意に現れた。
フェンス越し、おそらくプラスチック工場の敷地内と思われる場所に、桜は咲いていた。

「わー桜だ」
「ほんとだ」

街灯に照らされたそれは淡いピンクではなく輝くほどの白だった。暗闇の中ゆえにその色が妖しく際立つ。

「今年はこれで最後かもね」
「平成最後ですね」
「綺麗だね」
「綺麗ですね」

日本人は桜にいろいろ仮託しすぎだ、というむかし好んで使ったJ-POP批判の一節が頭に浮かんだ。なんとなくわかる気がした。

桜の木の下には死体が埋まっているのだという。だから、桜の花びらには血の赤が通っているんだって。

でもここの桜は真っ白だから、きっとここには死体なんか埋まってないね。

写真を撮りたかったけど、ぼくのカメラはポンコツで、この瞬間を綺麗に撮れない。
それに、本当の花をぼくのカメラに収めることは、きっとぜったい許されない。