平成死亡遊戯

インターネットの世界ではふとしたきっかけで死人と会うことがある。 
なんでも、霊子という粒子を電脳空間が媒介することであの世と交信ができるのだそうだ。 
しかし霊子に対応した回線はADSL回線までで、光回線は非対応らしい。 

平成が終わりを迎えるのと時を同じくして、ネットの海から平成の亡霊たちは一掃される。 


お昼時間にスマホの通知を見ていたら、mixiからこんな通知が届いていたのに気づいた。

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今や廃墟と化したmixiから、5年前に別れた元カノのメッセージが来ていた。 
平成の最後にmixiで連絡を取ってくるのがとても粋。 
会ってみようと思った。その夜、ぼくは元カノに再会した。ぼくの初めての人だった。 


彼女は繊細で、儚い人で、ぼくと別れたら死んでしまうのではないかと思っていた。 
ぼくより3つ上の人だったから、別れた時の彼女年齢はたしか25歳。今は30歳になっているはずだ。
そこまで生きる人だとは思ってなかった。老いた彼女を見るのはとても怖かった。 
だって彼女はとてもきれいな人だったから。 


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これらはすべてその彼女の話だ。 

ロクなものがない。 


別れ方もそれは酷くて、目の前でリストカットをされたり、ぼくの両親に電話をかけられたりと散々だった。 

でも上の話を読んでわかる通り、一番悪いのはぼく。 
彼女のとの交際期間は、ぼくの人生の暗い影。 



待ち合わせ場所にいた彼女の顔はまったくの別人だった。 
声を掛けられるまでぼくは気づかない。 

「どう?わたし変わった?」 

と開口一番彼女が言った。 
目とほうれい線と輪郭をいじったらしい。 

30歳のあの子が現れると思っていたら、現れたのは年齢不詳の人工美人だった。 

―気づかなかった。きれいになったね。 

整形も一通り終わり、ぼくを見返すために連絡してきたらしい 

ーでも違うんだよ。そうじゃないんだよ。 


むかし二人でよく行ったベトナム料理屋に入り、一緒にご飯を食べた。 

別れてから何があったか、とか、どんな人と付き合っているか、とか話した。 

まったくビールが進まないことに気づく。喉が渇かないのだ。 
ぼくは好きな異性と喋ると、緊張してお酒ばかり飲んでしまう癖がある。 

本当に終わってたんだな。と思い悲しくなった。きれいになった彼女を前にしてもまったくときめかない。

彼女はぼくの人生の暗い影でもあり、センチメンタルな思い出のふるさとでもあった。なのに、まったく心が動かされないのだ。

久しぶりに触った彼女の肌はセルロイドのように、人形のようで、滑らかで不気味だった。 


「5年ぶりだ」


と彼女が笑った。

これを題に書いてはみたものの、散文詩はおろかエッセイにもなりそうもない。 
こんな感じでこの記事は終わる。 
ほんとうにほんとうにほんとうに終わり。

LINEを確認すると彼女のアイコンはなくなっていた。当然だと思った。彼女にとってはぼくが平成の亡霊だったのかもしれない。



ぼくの半生は彼女だった。



帰ってからトイレで吐く。お酒は一杯も飲めていないのに。