理系女子たちのすべて

中1の秋、親の離婚を期に『自立した女性になるため手に職を』と進路を理系に定めたある少女。

刻苦勉励の甲斐あって、国公立理系学部、同理系院を経て大手化学メーカーにめでたく就職。配属先は地方の工場。やりがいはあるけれど、不規則な勤務時間、男ばかりの労働環境、そして何より田舎田舎田舎…。

 

「私もOLしたい」「若さをこんな田舎で浪費したくない」「同級生が羨ましい」当初の志もどこへやら。激しい猟官運動の末、見事本社勤務のポジションを獲得した彼女。

それからというもの、花の都で発注、仕様書作成等のキラキラ管理業務の日々の末、市場価値400万のリストラ候補となりましたとさ。終。

 

 

幼少期、家庭の不幸があった人、特に家族の問題を自身の問題として強く考える女性に多いんだけど、そういうい人は「あの悲劇を繰り返さないために(たとえ繰り返されても強く生きていけるように)」ということで、とても質実剛健に、慎ましく生きようとする傾向がある。

 

ためしに理系女子に志望動機を聞いてみてほしい。2人に1人が「健気だな~」と思わせるエピソードを口にするはずだ。

対して、大手一般職のOLはというと、流されるままの生き方に何ら抵抗を感じなかった、幸せな人たちが多い。

 

前者は不幸を背負っている。

「大好きな人と結婚したとして、離婚したらどうしよう」

幼い頃の経験から何事にも臆病になり、ラクで、華やかで、楽しい生き方を取れない。

 

「大手の一般職なんて手に職付かないよ?クビになったらどうするの?」

「寿退社って言うけど、結婚は永久就職じゃないよ。将来離婚するかもだし」

 

彼女らの言うことはもっともだ。だけど、ほとんどの人生において、それら心配は杞憂に終わる。たいていの人生において、軽薄だ、と思われるような生き方の方が、楽しいし成功する。

 

幼少期に経験した家庭不和がトラウマとなって、彼女らは抑制的な、保守的な生き方しかできない。

 

みたいな話を妻がしてきた。

 

幼いころ、彼女の家にもいろいろとあったのを知ってるので、言葉の重みが違う。

「ネイルサロンで働いている同級生が羨ましい」

と妻は言った。

「だって、そういう選択が自然にできるくらい、きっと今まで平和に生きてきたんだから」

 

「そんなことはないと思う」とぼく。

無理を続けていると、人間どこかで吹っ切れる時がある。

 

上の寓話を、あたかも実話かのような感じで妻に話した。

 

「そういう上京っていいね。最後はリストラされようとも、くびきから解き放たれた、前向きな、刹那的な生き方。私は好き。」

 

話題は私立文系のぼくの、暗い暗い上京話へと移る。

実話なんだけど、この話は前の話なんかよりもずっとずっと寓話的だ。