パンのみで生きる

帰り道、妻と義母の話をした。

 

「あの人は何で死にたがっているんだろうね」

 

妻の母がまた自殺未遂をしたらしい。

いつも思っていることをぼくは口にする。

 

「お金もたくさんあって、働く必要もないなら、気ままなニート生活。

いいじゃん、何にも病むことないのに」

 

「人はパンのみに生きてるわけじゃないからね」

と妻が答える。

 

「前に精神科の先生が言ってたんだけど、どんなに物理的に恵まれた人でも、人に必要とされてないと不幸を感じるんだって」

 

自分の母のことなのに、4度目ともなればもう慣れたもんで至って冷静。

 

「夫にも娘にも愛されずか」

 

「お父さんはそうだろうけど、少なくともわたしは心配はしてるよ」

 

「でもわかんないな。ぼくだったら絶対病まないのに」

 

そんなこと言ったらさ、と妻。

 

「そんなこと言ったらさ、君だって、安定した仕事もあって家庭もあって、恵まれている方じゃない?いま幸せ?」

 

「ぼくはいま幸せだよ」

 

とぼく。即答で返した。

 

「いま幸せだ」

 

幸せだという人には嘘つきが多い。

だからぼくは力強くまた「幸せだ」と言った。

 

「この文脈で言ったら意味が違う」

 

と彼女は泣くように笑った。