後輩とバーで飲んで

高校時代は強豪の剣道部に入っており、週7で部活漬けの灰色の青春。

楽しかった思い出といえば、女性の先輩が部の掟を破りSNSを利用していたのが顧問にバレ、防具なしで突きを喰らい肋骨が折れたことぐらいだ、と後輩は言った。

 

え、なにそれは……

 

とコメントを挟む間もなく、彼の辛かった高校の部活動の話は続く。

前近代的な「熱血指導」と帝国陸軍のDNAを受け継いだ「精神論」蔓延るその部活は、進学校であった彼の高校では特異な存在であり、「よく新聞沙汰にならなかったなぁ」と思われる指導が日常茶飯事だったとか。

 

そのため、彼には剣道部はもとより高校生活自体に明るい思い出がない。

 

帰宅部で友達も少なく、机に突っ伏し寝たふりをして3年間を過ごしたぼくとはまた逆のベクトルで、毎日が異常な部活塗れだったため、高校時代を語る彼の顔は暗かった。

 

大学時代もそうだ、と彼は言った。

 

高校時代の反省から、部活動やサークル活動に一切入らない決心をしていた彼。

折しも家庭内不和のため、大学と実家の距離が3駅ほどしか離れていないにも関わらず一人暮らしを決め、以後4年間を、生活費を稼ぐバイトと統計のプログラミング(R言語)の勉強に捧げ、なんにも華やかなことなく気づけば卒業してしまったという。

 

「馬鹿な事できる期間に、馬鹿なことするべきでした。」

 

「そんなことないよ。高校時代も大学時代も、充実していて羨ましいよ。」

 

と半分本心、半分本心ではない言葉をかける。

 

青春という可能性にあふれた期間を、特定の何かに費やした経験。

それは羨ましいものだけど、ゼミ、バイト、サークル、語学クラス、それらすべてから逃げてきた甲斐性なしのぼく自身を振り返ってみると、たとえ過去に戻ったとしても、また同じ虚無な青春を過ごすに違いない。

だから、ぼくは過去に戻りたいなんて一度も考えたことがない。

 

「先輩のクズみたいな学生時代はどうだったんですか?」

 

と後輩。

 

クズは余計だろ、と思いながらも、ぼっちとコンプレックスの中、ただただ青春を浪費した自分なんかよりも、なんだか彼のことが不憫でならないような気がしたため、腹は立たなかった。

 

中、高、浪、大の何にもなかった日々を、ことさら諧謔的に、デビッド・カッパーフィールドのような語り口で事細かに話したら、彼は笑ってくれた。

 

 

「自分バーとか行ったことないんですよ先輩、連れてってください!」

 

と後輩に懇願され、先日ふたりでバーに行った。

 お酒を飲みながら、彼とはたくさん互いの過去を話した。

 

途中、貰いたばこを賭けて隣の女性客とダーツ対決をしたり、彼女の身の上話に茶々を入れたり、後輩相手に偉そうに語った酒のウンチクをマスターに訂正されたり。

 

とても楽しいバーだった。