認知行動療法

旧帝国大学で助教授として働く友人がいる。

自慢の友人だ。

 

先日、彼から死にたいと電話があった。

なんでも、国際学会で発表する内容を、先輩たち(同大学の教授陣)から腹筋ボコボコにパンチ喰らったらしい。先輩たちは人格者なので「とても良いと思うけど」という枕詞を付けてくれたらしいが、その後の指摘部分が本当にそのとおりで、友人は人格すら否定されるほどのショックを受けたらしい。

 

「教授たちは、まったく悪くないんだよ。優しすぎるくらい。彼らの言葉は正論で、そんな指摘をされる俺の至らなさが、彼らにそんなことをさせてしまった俺の至らなさが、本当に耐えられないくらいに辛い。いっそ無能だと言ってクビにしてくれ。」

 

と、男なのに泣きながらぼくに電話してきた。小学生のころからの腐れ縁なので、2時間ほど、彼の話を聞いた。

 

 

彼は中学の頃から、20年近く鬱病を患っていた。友人が彼くらいしかいなかったぼくは、彼経由でiHerbとかに詳しくなり、精神世界にも彼同様傾倒していく。

当時、電波男経由でそういう00年代のアングラカルチャーに近かったぼくは、彼というドラッグディーラーを通じていろんな世界を周遊した。

 

しかし、20くらいにもなるとーちょうど童貞を卒業した頃くらいだと思うがー答えは自分の中にはない、ということを、なんとなく悟り、自己探求を一切しなくなった。

彼は、その間もずっと薬と催眠術と宗教で、自己探求を続けた。

 

先日、彼から、「ある臨床心理士の診察を受けるために、毎月北海道に行っている」という話を聞いた。

 

精神科医でもなく臨床心理士。

「催眠術にでもかけられているのではないか?」と散々バカにした。認知行動療法手なんかで矯正されるほどのバカなのかお前はと。

 

あなたが、これからあなたが嫌なことを考えたら、もしストレスを感じるようなことに遭遇したら、以下の評価をしてください。

①なぜ嫌だと思いましたか?原因はあなたにありますか?

②もし友人や親族が同じシチュエーションにあって、同じ思いをしていたら、あなたは何と声をかけますか?

③②にも関わらず①だと思うのはなぜですか?

④①〜③を踏まえて、今後はどういう心持ちで物事に対峙しますか?

 

これを、毎日毎日、嫌なことに遭遇する度に日記に付けて繰り返す。

「俺は親にネグレクトを受けていて、自己評価とか低くて、みんなと違って取るに足らない人間だから、みんなと違って全部全部俺のせいな人間なの!」

という自我の存在に気づけたとき、瓦解できるらしい。

 

アホくさ。

 

そんなの百も承知で自己嫌悪してて、希死念慮やってんだろ。けど、老いて自分自身に興味がなくなって、ベクトルがぼんやりしちゃって、おや?生きてしまったぞ?になるんだよ。

 

そう友人に伝えようとも思ったが、彼の身を案じて伝えなかった。まだ青春をやっているんだろう。きっと、ぼくのこの感情は嫉妬だ。

 

 

北海道の臨床心理士は、スイスでユングを学んだ正統派らしく、認知行動療法には否定的で夢診断を行うらしい。

 

彼曰く、

 

夢診断と馬鹿にするなかれ、深層心理の中の自分は、自分でも理解できなかったような自分で、社交的で親が好きで、今の生活を愛していたりする。解釈違いや臨床心理士による洗脳かもしれないが、夢を用いて雄弁に語りかけてくる本当の自分に接していると、自尊心が湧いてきて、お薬以上に心地良いんだ。

 

と。家族のため、大学院の博士課程に行く妻のため、ちいかわ好きな娘のため、に働く大黒柱のぼくとしては、純粋で幼稚で脳幹が弱っている彼を、ヘーゲルの言葉で罵倒したくもなったが、思い出せなく、歯痒い思いをした。