照屋くんの事故のニュースを紙面で読んだとき、初めは人違いだと思った。名前の右横にある(27)に違和感があったからだ。
「あいつが27なワケないよな、…って、おれも今年で27だったな……」
お互い会わない間に歳を取ったな、と思った。
https://twitter.com/7mitsubachi/status/906041648949297152?s=19
このブログを書くにあたって、改めて照屋くんの名前をネットで検索してみた。該当はこのツイートしかなかった。
去年の今頃、事故の詳細が知りたくて血眼になって調べていた。全国ニュースにもなっていたし、調べればたくさんの報道機関のサイトがヒットした。しかし今じゃリンク切れ。
Facebookなんてやらないような人間だったから、今では彼の名前を検索しても生きていた痕跡はこのリンク切れのツイートしかヒットしない。
照屋くんは、彼は引っ込み思案でオタクだったぼくの、小学生から浪人期までを共に生き抜いた数少ない友達の一人だった。
死後一年、自分の中でいろいろと整理がついてきたので、彼のことを書く。
2017年の9月7日の夜、ぼくは成田空港にいた。
成田発那覇行きの深夜便の搭乗時間を今か今かと待っていた。お金もなかったので、羽田ではなく成田発の格安航空だった。
「貧乏ってやだねー」
「ほんとにな」
「学生のときですら旅行は羽田を使ってたのに、成田で深夜便って落ちるとこまで落ちた感じ」
「ごめんて…」
ぼくの隣で愚痴を続けるのは当時付き合っていた彼女であり今の妻。ぼくの両親から入籍の許しを得るための、ふたりでの帰省途中だった。
彼女の愚痴を延々と聞きながら、オセロアプリで勝負をしたり、沖縄旅行の予定を確認し合ってるときに、友人の小禄くんから電話が入った。
ーおかしいな、帰省のことは連絡入れていないはずなのに。
少し面倒に感じた。
ぼく、照屋くん、小禄くん、花城くんは小学校4年からの付き合いだ。その中でも照屋くん、彼はぼくらにとってのスターだった。小学生のその他3人は、彼を中心に集まり友達になった。
彼はまず足が速かった。照屋くんは運動ができ、女の子にもそこそこ人気があった。それに、少し悪い男だった。たまーに万引きをし、その収穫物をぼくらにくれた。
子供ながらに「それはダメなことだよ」と思いながらも、それをやり遂げ気前よくぼくらに配る彼の姿にとても好感を持ってしまってた。
それになにより趣味がよかった。ぼくらに爆笑問題を教えてくれたのも照屋くんだし、メダロットを教えてくれたのも彼だった。
彼に影響され少ないお小遣いでコミックボンボンも買った。彼について行きたかった。彼は決してクラスの中心グループというわけではないけど、今考えてみれば十分オタクグループだったけど、彼はその中心で輝いていた。
彼のもとに集まって、ぼくらその他3人は互いに友達になった。
途中、ぼくが風来のシレン64にハマったり、劇場版ドラえもんのビデオボックスにのめり込んだりして、付き合いが悪くなったが、小4から小6の間までは、ほぼ彼らと一緒に学校から放課後までを過ごした。
テルテル探検隊と称して、わざと迷子になるようにして知らない街を歩き回ったり、ぼくらが住んでいた浦添市の少し北、北谷町のジャスコ(現イオン)に2時間もかけて歩いて行っては、ひとり300円もない軍資金で5時間メダルゲームで粘った。
やっている内容は全然違うけど、スタンドバイミーのような青春映画を観ると、このころを思い出す。何から何まで楽しかった。
中学校に上がってもぼくらの付き合いは変わらなかった。
校区割により、小禄くんはぼくらと別の中学に行った。けど、ぼくらは元来の人見知りで、新しい友達などはできず、放課後や週末、いつも遊ぶのはこの4人だった。変わったところといえば、照屋くんが少しぼくらより性格が暗くなったことだ。
中学1年の時は照屋くんとは同じクラスだったが、小学生のときと打って変わって、あまりクラスで積極的に話すことがなくなった。
「おれ顔赤いだろ?なんかの病気みたいなんだ」
と照屋くんは言った。それが気になって、引っ込み思案になったんだと。
でも、本人が気にするほどそんなに顔は赤くない。
「精神的なものじゃないかな」
と照屋くんのお母さんは言った。ぼくもそう思った。
「クラスのみんなから笑われている気がする」
「車に乗っている人たちの視線が怖い」
変なことを言うことが増えた。今となっては彼の言っていたことがよくわかる。深夜ラジオ、エロゲーム、薬。そこからぼくらグループは落ちるところまで落ちる。
「このなかで一番最初に死ぬのなら、花城、きっとお前だな」
と言ってみんなで笑ってた花城くんは何度も自殺未遂を続けながらも一命を取り留め、皮肉にも照屋くんは一回で死んだ。
沖縄の照屋くんが死んだあの夜、ぼくは成田空港で那覇行きの飛行機を持っていた。
婚約者をあのグループと会わせる気がなかったから、照屋くんに帰る話はしていなかった。
「ぼくが婚約者と戻るという話をしていたら彼は死ななかっただろうか」
彼の通夜に婚約者と並びながら、いろんなことを考えた。