楽園

5年ぶりくらいに両親の故郷である奄美諸島の小さな島に帰った。

目的は去年の結婚式に台風のせいで来れなかった親戚たちに、妻といっしょに挨拶をするためだ。

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弟はもちろん来なかった。


電照菊の栽培で有名なその島は花の島と呼ばれている。

畑には菊以外にもユリ、グラジオラス、ソリダゴ等々が栽培されており、車を走らせれば各家々が軒先に植えた多種多様な花を見ることができる。


人口1万人、コンビニは聞いたことない生協系列のチェーン店が1店舗だけある。

沖縄からフェリーで8時間、鹿児島からは28時間。

まさに絶海の孤島だ。


そんな島に妻と行った。
渋谷出身の彼女は、「テレビで見たことないザ田舎!って感じですっごいいい!」と終始感動しきりだった。

生粋の都会人には故郷がないらしい。

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(祖母の家の縁側)


3泊4日の日程でその島には滞在したのだが、1日目に挨拶回りを行って以降、まったくと言ってすることがない。
島に友達がいるわけでもない。
暇だ。


彼女と祖母家、祖母の仏壇の前の大広間でごの畳の上でごろごろしながら、漫画を描いたり、ピアノを弾いたりして過ごした。

「私ちょっとドライブしてくる」と妻。


彼女の運転する車に乗ったら命がいくつあっても足りないので、誘いを断りごろごろを継続していると、玄関から声がした。

女性の声だ。


「すみませーん」


妻ではない若い女性の声。


玄関に出てみると、ぼくと同い年、20後半そこらの見知らぬ女性が外に立っていた。


「すみません坪内さんですか?」


「はい、ぼくが坪内ですが、…」


「よかった会うことができて。私、坪内早苗と申します。この春、坪内将さんと結婚しました。」


どうやら、ぼくの従兄の新妻らしい。

マンゴーケーキという、ぼくの大好物の手土産を貰ったので、せっかくなので部屋にあがってもらって話を聞いた。




夕方、ドライブを終えた妻が帰ってきたので、残ったマンゴーケーキを一緒に食べながら、早苗さんの話をした。


「へ~、京都出身でこの島に嫁いで来たんだ。どういう経緯で知り合ったの?」


――従兄が大阪の大学を出てるから、そのときのつてで開かれた合コンで出会ったらしい


「それで島の女に?」


――このなんにもない島に嫁ぐってすごいよな


「うん、私だったら考えられない。今日ドライブで2周くらいしてきたけどさ、綺麗でいい島だとは思ったけど、やっぱ狭くて」


――わかる。ぼくも沖縄じゃなくてもしもここで思春期を過ごしてたら、と思うと息が詰まることがある


「どこにいても四方に海が見るってのも閉塞感あるよね。わたし、君がこの島に住む男じゃなくてよかったって思ったよ。」


――なんで?


「その早苗さんって女性とは違って、わたしこの島の男に嫁ぐことはできない」



嘘でもいいから、そんなことは言ってくれるな、と思った。



早苗さんは色白できれいな女性だった。そして線がとても細くて彼女の未来を案じた。