サザンオールスターズ、宇多田ヒカル、筋肉少女帯、内田百閒、風来のシレン……、と好きなものは数あれど、好きだからといってさほど詳しいわけでもない。作品を全て追えているわけでもない。
オタク同士の会合では、対象への愛はその詳しさとニッチさに比例する、と捉えられがちだ。
「宇多田ヒカルで何が好き?」と聞かれて「光かな」と答えた暁にはニワカ認定を受ける始末。
宇多田ヒカル界隈で市民権を得るためには、最低でも『ULTRA BLUE』収録楽曲から答えなければならない。
そうした物差しでは愛は測れないとぼくは思う。
愛というのは、その対象にまつわる個人的なエピソードで測るべきだと思うのだ。エピソードが気持ち悪ければ気持ち悪るいほど、その愛は深い。
江戸川区にある筋肉少女帯好きが集まる飲み屋でのこと。
マスター「お客さんは筋少(筋肉少女帯のことです)の曲で何が一番好きなんですか?」
客1「銀輪部隊ですかね〜。鬱のとき自転車漕ぎながらよく聴いてました。鬱が加速したので辞めましたが。」
一同「わかる~」
客2「やっぱ大釈迦ですね(釈迦ではないです)。原曲に比べてオドロオドロしくて、ライブで初めて聴いたときは、イントロで濡れて『とろろ脳髄』コールでイッちゃいましたぁ(照れ)」
一同「深いね〜」
客2「客3さんは?」
おれ「夕焼け原風景ですかね。」
一同「再結成以後(笑)の?」
おれ「はい。元カノが武蔵五日市に住んでおり、付き合っていたときは一度も行ったことなかったんですが、別れた後武蔵五日市を歩いたことがあってその時に聴いていた曲です。実家とされていた住所の敷地内に○○教の教会が建っており、『この原風景のなか育ったんだなぁ』としみじみと〜」
一同「……」
エピソードで差をつけその場では優勝した。