転職活動エピソード2

未経験エンジニアの募集のほとんどは詐欺だ、という話を聞いた。

『月給30万〜で君もPythonエンジニアだ!』

の文句に惹かれていざ入社してみると、SES(客先常駐エンジニア)とは名ばかりの、コールセンター業務に月給20万で従事させられている例がザラらしい。

 

30代未経験エンジニアとして応募を出せる企業を考えると、NTTやDNA等の大手には箸にも棒にもかからないに違いない。社格を採用可能性ありのラインまで下げるとSESくらいしか残らない。

 

しかし、今度は会社の規模も下げてみると、中小の自社開発企業や受託開発の募集が見えてくる。鶏口となるも牛後となるなかれ。ぼくは、会社規模ではなく業務の質で会社を選ぶことに決めた。

 

先日、ある従業員100名程度の中小企業(以下A社とする)の書類選考が通ったので、会社に伺って採用担当の部長と面接をした。A社は監視カメラやセンサーなどの開発を行うセキュリティ企業で、新たに月額制のクラウド・防犯サービスをローンチするにあたりITエンジニアを募集していた。

 

A社の歴史が面白い。設立は古く東京オリンピックの年。当初は警備会社をしていたが、次第に大手に追いやられ警備機器の開発会社に鞍替えをした。監視カメラや防犯センサーの開発をする町工場としてなんとか存続するも、IT化の波に乗り遅れ2000年以降売上は減少。起死回生の策として東証プライム上場のITコンサル企業(以下B社とする)にITサービスの開発を依頼するも、逆にB社に買収されて今に至る。

 

買収したB社にとっては、A社の古臭くも安定した組み込み(メカ)技術と販売網が魅力的だった。その技術や営業力を活かしたまま、サービスのクラウド化による『防犯のサブスク化』が実現できれば、A社の飛躍が期待できた。

 

のだが、買収はA社内に大きな分断を生んだだけで、あまり上手くいってなさそうだった。社歴数十年の昔ながらの町工場エンジニアと、買収後B社から送り込まれたオタクITエンジニアの対立。両者水と油で、買収後のシナジーなんてあったものではなかった。

 

「未経験の私なんか採用せずにA社内の人材をITエンジニアにジョブチェンジさせるのはダメなんですか?」

とぼくは質問した。ぼくと面接をした採用担当の部長はB社からの出向組だった。

 

「彼らにリスキリング?無理無理。組み込みは組み込みだよ。JavaScriptだって書けやしない」

 

と同僚社員を小馬鹿にしたような言動が目立つ人だった。

 

「この建物は建てたばかりだから綺麗だけどさ、隣の工場が実は本社で産業遺産並みに古いんですよ。よかったら見に行きませんか?」

 

とその男に誘われて隣の本社社屋を1階から5階まで歩いて回ったが、ぼくらの横を通り過ぎる作業着姿のおじさんたちは誰もぼくらに挨拶すらしなかった。

 

「ね?古いでしょ」

 

とその男は笑ってぼくに、タバコで黄色くなった天井やコードが剥げたハンダゴテを見せた。

 

 

募集要項には「新規クラウドサービス開発のためのIT人材」ということでRustとReactとUIデザイン、それにクラウド周りの各種経験が求められていた。

文面を読むと「難しそうだな…」と尻込みしてしまう内容だったが、実際の開発環境やGitのコードを見せてもらうと「レスポンシブ対応が甘い」と素人目にもわかるくらいのレベルで、コーディングの技術はさほど高くなかった。この会社はしっかりとした経験者を雇った方がいい。

 

社内見学が終わると

「未経験者の君には、ダミーコードの修正をもって入社テストとしたい」

と言われて課題が出された。

「はい、頑張ります」

とぼくは答えて帰った。

 

殺伐とした社内の雰囲気がどうも苦手で、結局、ぼくは次の選考を辞退した。

 

彼は社内のB社派閥を増やすために、未経験者も手当り次第に採用しているのではないか、という疑念がぼくの中にあった。

 

大企業と言えどもSESは行きたくない。かと言って中小は待遇面以外のリスクも存在する。

 

ITの未経験転職ってやっぱ無理なんか、とクソデカいため息をつく毎日。