「やっぱり私たちみたいなさ、薄っぺらく頭も悪い人間の話す話に深みなんてないからさ、しゃべってても誰も聞いてくれないわけよ。
彼氏も家族も誰も私の話なんて聞いてくれない。
でもね、恋って不思議なもので、たとえどんなツマラナイ話でも、好きな人の話には「うんうん」なんて言いながら、目をトロンとさせて聞かせることができるチカラがあるわけじゃん。
だからね、何か話したいことがあるときは、取り敢えず"私を好きそうな男"に声かけて、聞いてもらったりするわけ。
手近にいなければこういうバーとかで、おひとり様の男相手とかにね。私のことをついさっきまで知らなかったような人でも、「うんうん」と私の話を聞いてくれるんだ。
もちろん、こういうのは私が若いからできるってこともわかってる。たいして美人でもないし、若さぐらいしか取り柄がないからね。
年を取ったらそのうち、誰も私の話を聞かなくなることもわかってる。それまでに、たとえツマラナイ話でも、恋の魔法がなくたって辛抱強く私の話に付き合ってくれるような男と出会いたいんだけど、なかなかね。
恋はいつか終わるものだから、それがなくとも話を聞いてくれる人。それが第一条件。
ひとりで死ぬのが怖いわけじゃない。ただ、無性に誰かに話を聞いてほしい夜がたまにあって、いつかその夜をひとりで過ごさなきゃいけない日が来るのかと思うと、とても怖いの。」
以後ずっとツマラナイ話が続く。
処女先生の話は本当に面白くなかった。26歳、これでも自称処女らしい。
完璧にメンテナンスされた人工睫毛を撫で、芝居がかったしぐさで彼女は涙を拭った。
セックスへの期待感、と引き換えにしか人に話を聞いてもらえない、哀しい売春婦だ。