きーちゃん

こういう時くらいしか、お前はおれの話聞いてくれないからさ、まず誤解を解こうと思う。

 

お前が嫌いだったその名前、別におれの願望が込められてるわけではないんだよ。恥ずかしくて、ちゃんと話したことなかったな。

 

お前の名前はなかなか決まらなくてさ、ママと「あーでもない」「こーでもない」ってよく揉めたよ。

産まれるその日まで結局名前は決まらなくて、「産まれてきたら赤ちゃんになんて声かけよう」って分娩室でおれ考えてたんだよ。

 

けど、産声をあげてお前が産まれたその瞬間、お前の顔を見て「これだ」って名前がすぐ出たんだ。

 

お前もママも誤解してたらしいけど、

 

"喜び多い人生を送る長男“

 

ではないんだぞ。

 

"クソみたいだったおれの人生に、一番の喜びを与えてくれた"

 

から『喜一』、きーちゃんなんだよ。

 

ドロドロな顔で泣き叫ぶお前を見てさ、おれ初めて、「生きててよかった」と思ったよ。人生あんなに嬉しいことはない。

 

おれが童貞を捨てたのは27でプロ相手だったし、最愛の人、ママと出会ったのは33だ。そのときは3000万の借金があった。

 

実は言うと、おれママがお前を産むのには反対だったんだ。貧しい思いはさせたくなかった。けど、産まれてきたお前見てるとさ、「コイツがいるならなんとかなる」って本気で思えたんだ。

 

お前と違っておれは大学を出てない。だから反出生主義とか難しいことはわからないけど、確かにおれも生きるのが嫌だと思い続けた人生だったよ。でも、産まれてきたお前の顔を見てからすべてが変わったんだ。

 

喜一、中絶させようと思ってたお前の誕生が、おれの人生を変えたんだ。願望ではなく、お前が誕生と同時に成し遂げた功績を、おれは名前にしたんだ。

 

人生何があるかなんて誰にもわからないんだよ。20で人生知った気になって本当に死ぬバカがどこにいるんだ。