ベッドタイムストーリー

家族3人、川の字になって寝るため妻と会話ができない。娘は自分の入れない話を始めると怒るので。

しょうがないから、妻に話したかった「友人が30すぎで童貞を捨てるまでの顛末」を"K君ごっこ"という人形劇で再現したところ娘に大ウケ。もう5回は上演した。

 

妻は昔話や人形劇遊びをニガテとするタイプ。一方、ぼくは独り言が多く一人遊びが得意なタイプ。それだから、娘は毎回、母ではなく父にお話をせがむ。

 

ただのお話ではなく、『ぷーさん』と『ぴょんちゃん』と名付けられたぬいぐるみを使った、人形劇形式でのお話を娘は求めてくる。


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寝室の布団に家族3人寝転がりながら、毎晩、ぼくは人形劇をする。娘は寝付きが悪いため、その人形劇の上演時間は毎回1時間以上。娘が寝るまで、お話ら続けなくてはならない。『シンデレラ』や『赤ずきん』を普通に上演したようでは、尺が足らない。

 

娘のその時のねむねむ度合いに応じて、シンデレラの本当のお母さんを出したり、赤ずきんを助ける猟師の半生をデイヴィッド・コパフィールド式に長々と紹介したりと、物語を改編することで時間の調節を行っている。

 

妻に言わせれば「そこまでつまらない話を長々とできるのはあなたの才能」らしい。ぼくの"つまらない"人形劇が始まると、娘より先に妻が寝る。娘は毎回興味津々な顔で、笑ったり驚いたり応援したりして最後まで聞いてくれる良い客だ。

 

この人形劇の習慣も2年も経つと、演じるぼくの方が飽きてしまった。寝る前の1時間はこれで潰れてしまうので、妻ともあまり会話ができない日々が続き、夫婦のすれ違いも増えた。

 

これじゃイカン!

 

と思ったぼく考えついた解決策が、ぼくが妻に話したいことを人形劇にすることだった。

『転職活動をするぷーさんの話』

『インフレに苦しむぴょんちゃんの話』

『浪人中、古本屋巡りで自転車ばかり漕いでいたため、自転車の整備ができるようになったぷーさんの話』

など、その日その日で、妻に話したいことを人形劇にして、家族3人川の字になりながら上演した。

 

妻にとって、内容は相変わらずツマラナイらしく、彼女は15分も経てば寝てしまう。ぼくの伝えたいことは、きっと妻には伝わっていない。

 

だけど、そんな内容でも娘には好評で「ひみつで転職活動するのは大変なんだよね」とか「モスバーガー値上げしたらみんな困るんだよね」とか、人形劇の内容から教訓めいたものを勝手に見つけてちゃんとリアクションしてくれる。

 

それでもネタ切れしてしまうから、浪人時代に好きでよく読んだ古典の話も最近では話す。太平記に蜻蛉日記に今昔物語。中でも娘はとりかえばや物語がお気に入りで、よく「むしの話して」と求めてくる。

女の子なのに電車や虫が好きな自分自身を、お話の主人公である若君の中に見出しているからかもしれない。

 

ジェンダーが男の子の若君と、女の子な姫君が、互いに性別を偽りながら朝廷内で出世を目指すこの原作は、最終的にお互いの生まれ持った性別に立ち返り出世することで、いちおうのハッピーエンドを迎える。

 

令和の時代それでいいのか?虫や電車好きの女の子が、そのままの趣向を保ったまま幸せになる物語じゃダメなのか?

そう思いぼくは、原作とは違ったラストを人形劇で演じている。

 

毎晩、娘相手に人形劇をするようになってから、ぼくの創作欲が満たされたのか、以前のように物語を書くことは少なくなった。物語を書くために公務員になったのだから、その公務員を辞め転職することになったのは、彼女のおかげかもしれない。


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